【高齢者の傾向】
高齢者には、長年の経験、知恵があり、危機的な場面でもたくましく乗り切れることが多いのは事実ですが、一方、体力、経済力の弱さから、被災によるダメージを受けやすいのも事実です。高齢者といってもさまざまですが、一般的には次のような傾向があります。
- 身体的な機能が低くなっているため、生活環境変化の影響を受けやすい
- 加齢にともなう脳の変化により、うつ状態になったり、認知症を発症したりしやすい
- 長年かけて築いてきた生活を失ってしまった人はショックが大きい
- 今後の再建に対して希望的な見通しを持ちにくい
- 家族や若い人たちに迷惑をかけたくないという思いから、苦痛を訴えないことがある
- 運動不足から、廃用症候群(生活不活発病)という心身の機能低下を起こすことがある
「大丈夫ですか?」と尋ねても、「大丈夫、大丈夫」と答える方も多いですが、身体の状態を中心に、たとえば、「肩こりはどうですか?」「足は痛くないですか?」などと、具体的に尋ねてみてください。そうするとさまざまな身体の不調を訴えることがあります。身体の不調を出発点に、気分やその他さまざまな話に発展していくことも多いです。
【うつやせん妄への対処】
うつ状態におちいっていても、高齢者の場合、あまり抑うつ気分は強くなく、身体症状、無気力、意欲低下が目立つことが多いです。うつ状態にともない、記憶力や思考力が低下し、一見すると認知症のように見える、“仮性認知症”という状態になることもあります。
うつ状態におちいっている人に対して、むやみに励ますのは避けましょう。孤独感を和らげるように、家族がなるべく付き添うようにしたり、昔の楽しかった話をしたり、軽い散歩に誘うなどが役立つかもしれません。また、適切な治療により改善しますので、巡回の保健師や医師に相談してみましょう。
避難所に入ったり、仮設住宅に入居するなど、急激な生活環境の変化があると、突然、幻覚や妄想が出現することがあります。これは“せん妄”と呼ばれる状態かもしれません。せん妄状態になって、興奮している人には、声のトーンを落としてゆっくりと話しかけ、今いる場所が安全であること、家族、知人が側にいることを伝えてください。せん妄は数日で改善することも多いですが、うつ状態と同様、治療が可能ですので、医師に相談してみましょう。
【認知症の方への対応】
避難所生活のストレスは、認知症の方の症状を悪化させたり、認知症とまではいえないレベルだった方が認知症を発症するきっかけになることもあります。
今回の震災では街の景色も一変してしまっており、避難所も元の自宅から遠く離れた場所になっていることも多く、新しいことを覚えるのが苦手な認知症高齢者は、混乱しがちです。仮設住宅への入居も同様です。そういった混乱を少しでも和らげるための関わりが必要です。それには次のような工夫が役に立ちます。
- 今いる場所、日時、このあとの予定などを伝える
- 書くものがあれば、上記のような必要事項を書いて、見えるところに貼っておく
- 避難所の中では、人の出入りの少ないなるべく静かな場所を選ぶ
- 散歩に一緒に出るなど身体を動かす機会をなるべく多く作る
- 落ち着きがないとき、徘徊するときは、無理に止めずに、話をしながら少し一緒に歩いて元の場所に誘導する
- 日中の子どもの遊びを見守ったり、軽い荷物を運ぶなどの、簡単な用事を頼む
家を探そうとして避難所に戻れなくなることも過去の災害ではあったようです。一般に夕方から夜にかけて不安が強くなりやすいので、そういった時間帯に徘徊することが多いです。睡眠リズムが崩れて昼夜逆転していることもあるため、常に誰かが見守っておく必要はありますが、家族のうちの限られた人がその役割をしていると疲れてしまうので、交代で行ったり、避難所の他の人達や責任者の方に事情を説明して、少し代わりに見てもらって、その間に休憩するなど、家族、介護者の疲労が蓄積しないような工夫も必要です。また、万一、迷い出て戻れなくなってしまった場合に備えて、名前、避難所名、その他の連絡先の書かれたものを身につけておいてもらうと良いでしょう。
文責:梨谷竜也
作成:2011年3月25日
最終更新:2011年3月27日