日本心理臨床学会第34回秋季大会 対談

日本心理臨床学会第34回秋季大会 対談

2015年9月18日に行われました第34回秋季大会「対談」の記録データを掲載しております。
※「概要・出演者等」、「内容」は、プログラム/論文集に掲載したものです。内容、出演者等、変更になっている場合もあります。

記録データ

概要・出演者等

児童養護施設で生活する子どもの支援をめぐって
9月18日(金)13:30~15:30 神戸国際展示場2号館1階コンベンションホール南

対 談:西澤 哲(山梨県立大学)
田嶌 誠一(九州大学大学院)
司会者:冨永 良喜(兵庫教育大学大学院)
海野 千畝子(兵庫教育大学大学院)

内容

【企画趣旨】
本対談の趣旨は、児童養護施設で生活する子どもたちが安心して生活できる支援のあり方をあきらかにすることである。児童養護施設の子どもたちのために尽力してこられた西澤哲先生と田嶌誠一先生のお二人の対談を通して、お互いの方法論や理論を交流させ、生産的な議論ができ、そのことが子どもたちの福利に還元されることを願ってやまない。

西澤 哲 「不適切な養育を受けた子どものケアのあり方」
児童養護施設で生活する子どもの大半は、保護者による虐待やネグレクトなどを経験してきている。こうした不適切な養育は、多くの子どもに、トラウマに関連した症状や行動およびアタッチメント(愛着)の形成不全に由来する問題をもたらすことになる。そして、これらトラウマ関連症状やアタッチメント関連症状は、子どもの成長発達とともに、複雑性PTSDや発達トラウマ障害などの複雑な臨床像をとるようになり、さらに、後年のさまざまな精神疾患や反社会性の問題に結びつく可能性が高いことが指摘されている。したがって、こうした子どものケアにあたる児童養護施設等の福祉実践の場では、子どものトラウマ症状の軽減と、信頼できる養育者との健全なアタッチメントの形成を目指したケアが求められることになる。
こうした問題に対応すべく、現在の児童養護施設には心理専門職が配置されているが、上記の問題の複雑さを考えれば、心理療法や精神療法を提供するだけでは不十分であり、日常の生活支援におけるケアが重要な意味を持つと考えられる。本報告では、こうしたケアのあり方を、北米を中心に提唱されているTrauma Informed Practice(トラウマを認識した実践)と関連付けながら検討する。

田嶌 誠一 「成長の基盤としての安心・安全の実現の取り組み」
このたび西澤氏とこの問題について面と向かって初めて議論できることになった。こういう機会を設けていただいた関係者のご尽力に感謝申し上げる。自分の実践と理論をお互いに語り合うことで、児童養護施設をはじめ社会的養護の元で暮らす子どもたちのへの支援について真に重要な問題が明らかにできれば、この子たちにとって大変実りあるものになるのではないかと期待している。
児童養護施設では2レベル3種の暴力があり、いずれの暴力も深刻であることが決して少なくない。このことは、子どもたちにとって、成長の基盤としての安心・安全な生活が実現されていないことを意味している。児童養護施設では被虐待児の入所が多くなり、近年では心のケアの必要性が言われている。しかし、個々の心理療法やケアが実質的な効果を上げるには、成長の基盤としての安心・安全の実現が大前提であり、それこそが最優先に取り組まれるべきである。持続的で安定的な安心で安全な生活の基盤なしには、個別のケアの効果はきわめてあがりにくいものと考えられる。
また、この暴力問題は個別ケースへの対応だけでは解決困難であり、個々の職員の対応を応援する施設を挙げた仕組み―「モニターしつつ支援する仕組み」―が必要である。私はそういう仕組みの一例として「(児童福祉施設版)安全委員会方式」を考案し、全国の18ヵ所の施設で実践して成果をあげ、さらに「全国児童福祉安全委員会連絡協議会」
(HP http://www2.lit.kyushuu.ac.jp/~com_reli/safety/)を結成し、問題の解決に向けて全国的活動を展開しつつあるので、それについて紹介したい。

 

※プログラム/論文集に掲載したものです。内容、出演者等、変更になっている場合もあります。

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